広島高等裁判所 昭和27年(う)616号 判決
論旨第三点、原判決には審理不尽若くは事実誤認の違法があるとの主張について。
訴訟記録を査するに、原判示の物品が覚せい剤であることは原審において被告人の認めて争わなかつたものであり、原判決に摘示した証拠によれば一応原判示事実は認められるようである。然し原判決に掲げる証拠その他全記録に徴しても、単に覚せい剤として表示されて居り覚せい剤取締法第二条第一号に規定する如何なる製剤であるか不明である。又当法廷に於ける被告人の「被告人が売買した覚せい剤は箱にも這入つて居らずバラのもので、商標もついていないものであつた」旨の供述、及び裁判長の問に対する検察官の「本件覚せい剤は「ホスビタン」と称するものであるがその製造所は不明である」との答、更に又近時巷間に於て覚せい剤と称して盛んに密売されているが、偽物も相当あることは顕著な事実であることなどの諸事情を考え合せると原判決摘示の証拠によつては未だ原判示の被告人が売渡た物品が覚せい剤取締法第二条第一号所定の覚せい剤に該当するものであるか否かについて之を証明するに足らないと云わざるを得ない。
原審は此の点について充分な審理を遂げて之を明かにすべきであつたのにことここに出なかつたのは結局審理不尽に基いた判決に影響を及ぼすことの明かな事実誤認か乃至は理由不備の違法があることに帰するから、此の点に関する論旨は理由がある。